『寒天』(短歌集)

鍋の中、ジャムになる

思い出に 砂糖を入れて 煮詰めても ジャムのようには 甘くならない

ふりむいて

いっぽずつ まえにすすんで いることを ふりむかないと わすれてしまう / ごがくゆう

プリン・アザラシモード

かなしみの キャラメルのうえ よろこびの 生クリームと さくらんぼあり / ごがくゆう

蒸しパン

蒸しパンの 匂い漂う 午後三時 ずる休みせず 正解だった

白い背景

失恋の 翌日などは 新品の 塗り絵のように すべてが白い

手袋の白うさぎ

寒い日に 白いうさぎの 手袋が わたしの指を 噛む真似をした

校則違反

心持ち 短く切った 紺色の セーラー服の スカートの丈

雨の日の通学路

一列に 並んで歩く 水たまり つぶれたカエル 踏まないように

十七歳、冬

バスのりば 吐く息よりも 白い頬 スクールバスは なかなかこない

放送委員

ポケットに 放送室の 鍵を入れ 廊下を走る そうじの時間

現代乙女

唇にタールを塗っていることに 気がつかぬまま 微笑む女人

ジャムを煮た

冷蔵庫 いちごの匂い しなくなり つめたいジャムは しずかにねむる

恋は打ち切り

つまらない ドラマのように 容赦なく ある日突然 恋は打ち切り

ぼやける四月

待ち合わせ おそばをたべて さようなら 病的なほど ぼやけた四月

りぼん結び

妖怪を 捕まえたなら 毒蛇で つよく縛って りぼん結びに

御涙頂戴

(または偽貧乏) 人聞きの 良いことばかり 考えて 合わせることに とうに疲れた

感傷的になりすぎる人々

さよならに 涙を流す ことはない 縁があれば 嫌でも会える

沸点

幸せで あればあるほど 沸点は 下がり続けて 笑えなくなる

裏切りなんてものはない

裏切るな そう言われると おしまいで 煙のように 私は消える

意味のある青

わけがあり 青い色した 遊具たち ブランコ以外 どれもきらいだ

六芒星

三角と 逆三角を かさねたら 星が描けると 母に教わる

暗闇の万華鏡

いつの日も 電燈消した 天井に ひかりの粒が きらめいている

ほんものの星

砂のうえ 人差し指で まるを描き これが星だと あのこは言った